赤い奇跡を待っている
赤い奇跡を待っている
私の住む世界には、色がない。
届くことのない陽光の代わりに、死骸や排泄物の混じり合った白い粒が頭上から音もなく降り続けている。
永遠の深夜は、どこまでも重く静謐な闇に満たされていた。
しかし海の底には時折、不思議なものが沈んでくる。
溶けることのないしましまの飴や、果物が閉じ込められたチョコ。人間を模したクッキー。ここまで流れ着いてきた鮮やかなお菓子は、古い絵本に記されていた『クリスマス』という不思議な風習に出てくるものと同じだった。
クリスマスには、赤い服を着たサンタクロースという老人が空を駆け、いい子に甘いお菓子を届けてくれるのだという。
私は、ふと自分の手を見つめた。手のひらに収まらないくらいの、たくさんのお菓子が欲しい。
もしもサンタクロースが、「いい子」の数だけお菓子をくれるのだとしたら。
疑問は祈りへと変わる。クラゲは、分かたれる生き物だ。一つが二つに、二つが四つに。私が増えれば、それは「いい子」が増えるということではないだろうか。
私の体の一部が、ゆらりと波打った。それは個としての境界を曖昧にし、分かたれる準備を始める。もう一人の私が暗闇の中にぼんやりと形作られていく。
私は生まれたばかりの私に向かって、期待に満ちた声をかけた。
「いい子にしていれば、お菓子をくれるんだって」
「本当に?」
さらにもう一人、闇の中から私が増える。
「本当に?」
新しく生まれた私が、小首をかしげて尋ねる。私が、確信を持って頷く。もう一人の私が、全く同じタイミングで問い返す。私の問いかけは二重になり、三重になり、暗い海底へと反響していく。泡となって消える言葉は、誰に届くこともない。
分裂し、増殖していく私たちは、互いの手を握りしめながら、頭上の遠い、遠い闇を見つめた。マリンスノーが、まるで祝福の雪のように、無数の私の肩へと降り積もっていく。
私たちは信じていた。この断絶された海の底にも、赤い奇跡が舞い降りることを。